ーダンバートンー
チェリークの治療が終わるまで、何をしていようか考えていなかったわけではない。
ここに来てから、ずっとやっておきたいことがあったのだ。
翌朝、竜義はヒーラー家の近くにある武器屋を通り過ぎ、
その隣にある学校の敷地内へ足を踏み入れた。
学校の建物の外では剣士育成のための授業が行われていた。
気が向いたら自分も受けてみようかな、と思った。
建物の中の一階は広いホールとなっている。
中央に向かうと、大きなユニコーン像が前足を振り上げる姿勢で立っている。
ユニコーンは伝説上の馬だと言われているが、最近エリンの各地で目撃情報が相次いでいるらしい。
本当に存在するのかどうかは不明だが、もし存在するのだとしたら、
きっとこの銅像とそっくりな姿をしているに違いない。誰もがそう夢見ている。
その場から少し離れたところに、両側とも2階へと続く階段があった。
ユニコーン像を前にした状態で向かった右側が魔法教室への階段、
向かって左側は図書館となっている。
図書館には様々な資料があり、ダンバートンの人々に多く利用されている。
竜義は図書館に繋がっている階段を上り、巨大な扉を開いて中に入った。
こちらもかなり広く、奥には教壇らしきものがある。
学校の授業のときにもここが使われていることが分かる。
竜義がここに来た目的は、もちろん本を読むためだ。
自分が記憶を失っている今、必要な知識を集めておいたほうが
後々役に立つと考えたのだ。
この場所は、チェリークが教えてくれた。
分野ごとに分かれている本棚をあさりながら、本を何冊か取り出していく。
ある程度揃ったところで、教壇から入り口まで続いている
道の上に腰を下ろして読み始めた。
今のところ図書館には竜義のほかには誰も居ないので、
周りを気にせずゆっくりくとつろぐことが出来た。
しかし、誰も居ないというのは間違いだった。
1時間くらい経過して、チェリークの様子を見に行こうかと思って顔げた時、
突然目の前の空間に翡翠色の光が差し込んできた。
眩しいほどではなく、綺麗で優しい光だった。
何が起きたのかと思った瞬間には、よく知っている姿が目に入った。
竜義「!」
そう、そこにはいつもチェリークの傍にいるはずのビオが浮かんでいた。
竜義「お前、チェリークと一緒にいたんじゃないのか?」
もしかしてずっと近くに居たのだろうか・・・。
ビオ「別にいいでしょ、ずっと姿隠してるの結構疲れるんだから。」
呆れた表情を竜義は浮かべた。

竜義「大雑把だな。
あまり人が来ない所とは言えないし、人が来たらどうするんだ。」
ビオはさも当然そうな口調で言った。
ビオ「そんなのすぐに消えれば見た人だって幻だと思ってくれるわよ、多分。」
竜義「そんなうまい話があるか・・・。」
改めて何と大雑把なスプライトなのだろうと思った。
ビオ「こんな所にスプライトが居るなんて、誰も思わないでしょ。」
竜義「分からないぞ、イメンマハの惨劇みたいに
魔族が街に攻め込んだこともあるし。」
口に出してはっとした。
イメンマハという街について詳しくは知らない。
知らないはずなのに、竜義はイメンマハの歴史を知っていたのだ。
一体何故・・・・・?
ビオ「と、とりあえず、消えればこっちの勝ちよ!」
何が勝ちなのかは分からないが、誰かと会話をしているだけでも今のことに悩まないで済んだのだからビオには感謝すべきだろう。
竜義「大騒ぎになる前に、人の気配感じたら消えろよ・・・。」
ビオ「分かっているわよ、もちろん。」
本に目を戻して続きを読もうとしたが、何となくビオに聞きたいことがあって落ち着かなかった。
竜義「ところで、あのエアウォークという魔族が言っていたが、
何故お前が倒れると、チェリークが弱いんだ?
見た感じ、そんな風には見えなかったが・・・。」
チェリークにずっと聞きたくて、でも聞けなかったことだ。
ビオ「う、随分痛いところ付くわね・・・。」
意外なことを言われて、ビオは戸惑っているようだ。
ビオ「それによく覚えていたわね、あの女が言っていたこと。」
竜義「お前が飛び出した時、あの女冷や汗かいてたからな。
あんなに必死になって止めていたら、誰だって覚えてるさ。」
ビオ「なるほどね〜。」
30秒くらいの間が空き、
ビオ「でも、悪いけどそれは言えない。」
きっぱりとビオはそう答えた。
竜義「お得意の黙秘か・・・。飼い主が飼い主なら、ペットもペットか・・・。」
ビオ「な、ペットって何よ!?私はペットじゃないわよ・・・。」
ペットと言われて、相当不満そうだ。
竜義「違うのか?てっきり俺はチェリークのペットだと思ってたがな。」
ビオ「ちが〜う!私はチェリークの・・・・・とにかく、私には言える権利が無いの!」
竜義「まあ良いさ、そのうち本人から聞き出すさ・・・。」
ビオ「そうそう、言えるのはチェリークだけだよ。」
そこまで言われては、チェリークに直接聞くしかないようだ。
竜義「チェリークに聞くことは山ほどあるな・・・、
救世主の力のことも、お前らのことも・・・。」
疑問はたくさんある。
いつか全てを理解するときが来るとしたら、なんて想像もできない。
ビオ「・・・言えないことについては、ごめん。
でもチェリークはきっと、自分の口で言うべきだと思っているはずだから・・・・。」
ビオは申し訳なさそうに、小さい声で言った。
竜義「はたして、あいつが言うのだろうかね・・・。」
沈黙が漂った。
ビオ「う〜ん、今すぐは無理じゃない?」
思ったとおりの回答だ。
竜義「だとしても、話して貰わなければ困るのはこっちなんだけどな・・・。」
何も知らないというのは、精神的につらいことである。
竜義「本当のことを話さない奴ほど、信じられない奴はいない・・・。
せめて、救世主の力だけでも教えて貰わなくては・・・。」
ビオ「だからと言って、強制的に言わせる手は駄目だからね?」
竜義「時間があるなら話してくれるまで待つさ。・・・時間があればな・・・・・。」
遠い目をして竜義は呟いた。
竜義「奴等がいつ来るか分からない。
それまでに、多少は力をつけなければ次に命は無い・・・。」
ビオ「あいつら強かったもんね〜。」
竜義「悔しいが、今の俺では絶対とは言えないが勝つことは難しいな・・・。」
ビオ「そこはこれから何とかするしかないでしょ。
まあ、本来はチェリークよりも強いはずだから大丈夫じゃない?」
竜義「本来は、か・・・・。」
本当にそうなのか、いまいち信じられない。
竜義「せめて戦い方でも思い出せればいいのだが・・・・・・・。」
やはりダンバートンの学校で、訓練を受けるべきだなと思った。
竜義「さて、そろそろチェリークの治療が終わっているはずだ。戻るとしよう。」
ビオ「うん。」
それからもうしばらくしてヒーラー家まで戻ると、治療は既に終わっているようだった。
チェリークは武器屋に剣の修理を頼みに行って来ると言った。
竜義さんのも修理しておいたほうが良いですよね?
と言われて改めて自分の剣を見てみると、かなり傷だらけだったことに気づいた。
しかも、刃が結構欠けている部分がある。
それほど、あのアルファルクの力は強かったのだ。
途端にあの時の悔しさが込み上げてきた。
とはいえ、いつまでも後悔しているわけにはいかない。
何とか感情を押さえ込み、チェリークに剣を渡して一緒に修理してもらうことにした。
因みに鎧の修理は、もっと損傷が酷かったそうで
マヌスが昨晩のうちに武器屋に預けてくれた。マヌスは優しい人なのであろう。
おかげで、次の日には着れる状態だった。
竜義はまだ本を読み終えていなかったので、図書館の方へもう一度向かった。
夕方頃になり、竜義はマヌスに包帯を取り替えてもらおうとヒーラー家へまた戻った。
途中で武器屋に寄り、修理された剣を受け取った。
ヒーラー家に着き、ドアを開けようとして一旦手を止めた。
スチュアート「だから、あの子は危険なのです!
今のうちに手を打っておくべきなんですよ!!」
中からスチュアートの声が聞こえたからだ。
マヌス「まあまあ、そう怒るな。だいたい、根拠はあるのか?」
他にもスチュアートをたしなめるマヌスの声が聞こえた。
どうやら少々言い合いになっているらしい。
スチュアート「もちろんありますとも!」
マヌスの質問に、自信ありげにスチュアートは答えた。
いつものスチュアートとは、まるで別人みたいに彼は興奮している。
マヌス「ほう、どんな?」
スチュアート「まず私のように魔法を専門に取り扱っている方たちは、
魔族の気配に人一倍敏感なのです。
私たちは学校で生徒に魔法を教えるだけではなく、
街に魔族が侵入してこないか見張る役目も背負っているのです。
そのため自分の住んでいる地域に出没する魔族について、
詳しく知っている状態でなければならないのです。」
スチュアートは軽く深呼吸をして、ゆっくりと言った。
スチュアート「そして私は感じたのです。
チェリークさんから、異常な気配が漂っているのを。」
チェリークの名前が出てきたことに、驚いた。
『あの子』とは、チェリークのことを言っていたのだ。
マヌス「異常な気配・・・さっぱり分からんな。」
首をかしげてマヌスは唸った。
スチュアート「ここまで説明しても分かりませんか・・・・。
分かりました。はっきり申し上げましょう。
彼女は『魔族とよく似た』気配を持っているのです。」
一瞬、背筋がぞっとした。
何か、嫌な予感がする。聞くのを止めたくなったが、体が動くことを許さなかった。
マヌス「・・・何だと??」
マヌスもかなり驚いている。
スチュアート「特に、この付近に居る中ではウィスプの気配と酷似しています。
そして、かなり強い。まるで、ウィスプを8体以上引き連れているみたいな感じです。」
マヌス「ガイレフの丘にまれに現れる、あいつと似ているな。」
スチュアート「はい。どう考えても怪しくないですか?
やはりアランウェンさんに頼んで、捕まえて幽閉したほうが安全ですよ!!」
マヌス「待て、それは早すぎる。今は様子を見ようではないか。」
冗談だろ、と言いたげにマヌスは苦笑している。
スチュアート「はぁ・・・あなたのような気楽にしていられる人に
私はなりたかったものですね。」
皮肉を込めてスチュアートは呟いた。
2人の会話を聞き終えて、その場にしばらく立ち尽くした。
もともと、スプライトを連れていること自体がおかしかったのだ。
チェリークは、『魔族』だったと言うのか・・・?
だが、彼女は魔族でないと言っている。
確かめる必要がありそうだ。
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こんばんは。
6話と同時に進めていましたので、7話は早く更新することが出来ました!
今回はかなり長いです。ご了承ください・・・。
7話の中間の会話はそこまで暗くはありませんが、
後半はそうではないと感じられているはずです。
次回の8話は、7話よりも緊迫した状態になりますので今のうちにお覚悟を(笑)
それでは、また次の記事で^^
追記:一部『リンクフリー』の方のブログをリンクに追加させて頂きました。
これからも追加することもあると思いますが、
不快に感じられた方は言って下されば表示を消します。
失礼致しました。