ーケオ島ー
ムーンゲートを通った瞬間に、景色が変わった。ここは「ケオ島」と呼ばれているのだが、イメンマハとは明らかに雰囲気は違う場所だった。反対といってもいい。
空気は重く、空は果てしない闇色だ。
何故だろうか、特に意識はしていないのに、心の奥から激しい憎悪を感じさせる。
それは、夜だからこそなのだろうか・・・?
おそらく昼間でも同じであろうが、夜はあたり一面が闇に支配されるときだ。
この場の威圧感はその分・・・・強い。
ビオ「うう、いつ来てもここは怖いね・・・。そのうち『アル』様が襲われてしまわないかすっごい不安だよ〜・・・・。」
怯えているビオは少女の後ろにくっついて浮かんでいる。
少女「怖い・・・か。ここにはビオの仲間がいるでしょう?」
分かっていると思うが、少女に怯えている様子は無い。
ビオ「た、確かに同じスプライトはいるけど、敵とみなされて攻撃してくるし・・・・。それに、ここにはゴーレムが大量にいるんだし、怖くてあたりまえだよ〜・・・・・。」
ゴーレムとは過去にエリンで起きた魔族との戦争に、人間が対抗して作った意思を持たない、魔法で動く兵器である。
戦争が終わっている現在はこのケオ島に廃棄されているが、いつからか動けないはずなのに活動を再開し、訪れる冒険者達を襲っているという。
ビオ「とりあえず、早く『アル』様のところに行こうよう・・・。」
少女「分かってる。」
少女はケオ島の中心に向かって歩き出した。中心に近づくにつれて、何か地下へ続く階段らしきものが見えてきた。運がよかったのか、近くにゴーレムは居ない。
中に入ると、怖さや憎悪は感じなかった。
だが、その代わりに感じるのは・・・・深い悲しみだ・・・・・。
目の前に短い通路があり、両脇には青く光る水が流れている。
通路を歩き終えると若干広い部屋になる。部屋の真ん中には、小さな池みたいのがあり、水はここに集まっているようだ。ここまでなら、単に「すごくきれいな水が集まっている部屋がある。」と皆言うに違いない。
だがそこには驚くべき光景があった。小さな池の中心に、「人の姿に似ている者」の姿があった。
そう、あくまで「人に似ている」のであって、その者は女性ではあるが、人間ではない。
その証拠に、その者は池の上に浮かんでいるのだ。さらに人間の耳に当たるところには魚の鰭みたいなものがついている。
しかし、だからといって決して醜く、恐ろしい姿をしているのではない。むしろ・・・逆だ。
とにかく・・・・・・美しいのだ。
まるで部屋に流れている水をそのまま形にしたよう・・・・。
明るいブルーの髪、透き通るような肌など、彼女は非の打ち所がない美女である。
一つだけ気になるのは、彼女の目だ。その青い瞳は、少女の瞳以上に測り知れないほど・・・・深い。
手を触れようと近づくと壊れてしまいそうな、あるいは消えてしまいそうなほど、彼女は儚く見える。
そんな彼女は【精霊】とよばれていて、そして彼女こそが・・・『アル』だ。

少女「こんばんは、アルさん。」
アル「お久しぶりですね・・・『チェリーク』さん。」
忘れるところだったが、少女の名は「チェリーク」という。
チェリーク「お久しぶりです。」
ビオ「アル様・・・!アル様お久しぶりです〜!!」
ビオはアルと会えたことが嬉しくてたまらないらしく、はしゃいでいる。
アル「久しぶりね・・・『ビオトープ』・・・。」
実は・・・ビオとはニックネームであり、本名は「ビオトープ」である。
ビオ「もう、アル様、こんな危険なところにいつまでいらっしゃる気なのですか??我はアル様がゴーレムたちに襲われないか不安でたまらないです〜!!」
アル「ビオトープ・・・ここはあたたかいの・・・私には。だから、分かってね・・・。」
ビオ「アル様〜・・・。」
ビオは完全に納得したようではないが、それ以上は何も言わなかった。
チェリーク「誤解とはいえ、人間に石を投げられたことがあるのだから、仕方が無い。外に出るのはさすがにつらいでしょう・・・。」
アル「ありがとう、チェリークさん・・・。でも、御気を使わせてしまいましたね。あなただって、つらかったでしょうに・・・。過去に、あなたがえr・・・。」
チェリーク「アルさん、そんなに心配しないで下さい。私は大丈夫ですから・・・。」
チェリークはアルの言葉を途中で止めた。もしかしたら、思い出したくないのかもしれない。
いや、あるいは『いつも思い出している』からこそなのかもしれない。
アル「・・・ところで、わざわざここに来るということは、私に何か御用があるのでしょう?」
チェリーク「はい。実は・・・。」
チェリークは朝にジェームスから聞いた話を語り始めた。
そのときも無表情だったが、昔を思い出したせいなのか、いつもとは違い、どこか悲しそうな雰囲気があった・・・・・・。